武田百合子

武田百合子『遊覧日記』(ちくま)
クッキーを一枚食べるみたいに六枚ぐらい、もう一枚、もう一枚だけと自分に言い聞かせながら六章目までつまんでしまった。「隅田川」のくだり。

「…何ともいえない情緒があるんだわぁ。屋形船は乗れば何万ととられるらしいから、とても乗ることは出来ないけど、川べりで見てるだけだって面白かったんだわぁ」
 それなら、あたしだって、その情緒に浸ってみたい。

一緒に私も浸りたい、と思った瞬間、そんなこと百合子さんが思っていた。嬉しくて一緒に川べりでお弁当つまんでるみたいな姿を想像してしまって頬が緩む。春の、花びらが雪みたいに降るなかで、百合子さんの髪に乗った平均台みたいにバランスとってる花びらを想像してくすくす笑ってるの。なんか、変かなぁ…。