中勘助銀の匙
日常文化が現代と違って古すぎて想像するのに苦労した点もあって長々とかかってしまった。けれどあんなに繊細で理屈屋な少年をどうして大人になってしまった彼が描けるのだろうかと心底嘆息する。子供のあの始めてものをみた時の驚きや理不尽さを忘れることなくいるなんて羨ましい。私は今幼少時を思い出しても波を聞いて泣き出した覚えもないし、今の薄汚れた感性でしか子供の感動を量れない辺りまだまだだなぁと思う。
最後の方の少年が成長して伯母さんに会いに行くシーンでは酷く、郷愁を誘い直ぐにでも入院している祖母のもとに帰りたくなってしまった。読んだ多くの人がそう感じたのでは。
岩波の『図書』で多くの著名人が私の3冊にあげていたのを思い出しては、なるほどと首肯せざるをえない。それくらい清廉な中勘助だった。