病院は嫌いだ。でも、行かねばならないのだろう。足は内出血が酷いし、どんな風にしたらいいか素人判断もできないくらいだし、相変わらず人に言わせれば“腫れている”みたいだし。けれど、あの病院の雰囲気の怖さには全くなれなくて、レントゲン室のあの暗さにもなれなくて、スーツで赴いた時レントゲン台に寝るのもなんだか嫌で、総じて病院が嫌いなのだ。怪我だとか病気だとか、そういう身体的精神的な支障がひどく、怖い。ああいうところに、特に支障のない人間が行くのは気が引ける。ああ、私の足はそりゃあ青白いし内出血が酷いんだから“支障”はきたしているんだけれど、でもなあ。怖いんだよなぁ。
いつも念頭にあるのは、7年も前の祖父の死に様だ。いっぱいのとうめいのストローみたいな管に繋がれて、生命が繋がれて、そんな無機質なものに繋がれて、怖くて、あれが怖くて。まるでストローによって生命をすわれているみたいに思って。怒鳴り声が出せない祖父が静かにぷしゅーぷしゅーと音を立てて生きている姿が、まるで精巧に作られた人間みたいな人形のようだった。あんな姿がいつも思い出されて、病院に行くと、あの急患用の出口から入って台車に乗せられて運ばれていく姿が鮮明で、燦然と輝く生命の終着地がそこにあるような気がしている。そうして目の前には人の泣く姿が、力を失う人の姿が、思い出されて、私はそこにいたくない、と祖父を悲しむよりも逃げばかりを思った。
怖かった。卑怯だと、思った。臆病だとも。私は。私は。